夫婦と音楽の話
先月、2年ぶりぐらいにライブを観に行った。夫と2人で出かけたのだが、夫婦でライブハウスに行くのはコロナ禍になるよりも前が最後だったので、もう本当に久しぶりだったと思う。
私自身、小さい頃から音楽はわりと好きな方だった。テレビで好きな音楽がかかると、自分の声が録音できるクマの形をしたおもちゃで録音し、何度も聴いていた。周囲の声を拾ってしまうため、家族には静かにしていて欲しかったのだが、兄に邪魔をされて憤慨しつつも、頑張って録音を続けた。いや母よ、CDの存在を教えてあげて。
小学生の頃はLINDBERGやPERSONZ、スピッツなどのバンドが好きで、もう少し大きくなるとハイスタなどのメロコア系のバンドに完全にハマり、高校も「軽音楽部があるから。」という理由だけで志望校を決めるような中学生だった。どこかへ出かけるときは必ずウォークマンを持ち歩き、とにかく常に何かしらの音楽を聴いているような子供だった。
大学時代に出会った彼、後の夫なのだが、最初に音楽のことで話が盛り上がって、そのまま付き合いが始まる、というオーソドックスな出会いだった。その後すぐ、夫に教えてもらったビートクルセイダースにどハマりし、県内のライブだけでなく県外やビークル が出演するフェスなどに2人でたくさん参戦した。
社会人になってからも新譜が出たら2人で盛り上がり、結婚式の入場曲も大学時代に「結婚したら絶対にこの曲で入場しようね。」と決めたビークルのBE MY WIFEを流した。
音楽は私たち夫婦をつないでくれて、ビークル はたくさんの思い出を作ってくれた。
そんなビートクルセイダースが2010年に散開(解散)し、最後のライブに行ってから1ヶ月後ぐらいにお腹に赤ちゃんがいることがわかった。
ビークル 以外にも好きなバンドはたくさんあったが、身体のことを考えてもライブに行けなくなるしなんとなく個人的にはよいタイミングでの解散だった。
そして2011年に出産、その半年後に元メンバーであるthaiこと田井ヒロユキさんの訃報が流れた。
アーティストが亡くなる話は珍しいことではないし、ましてやthaiさんの場合は元・ビートクルセイダースという立ち位置であり、もはや一般人なのにも関わらずネットニュースになり、偲ぶ会と称したライブイベントも行われた。
補足しておくと、ビートクルセイダースはヒダカトオルを中心に結成されたバンドで、4人編成のインディーズ期(旧面)と5人編成のメジャー期(新面)に分かれている。私たちがライブに行きはじめたのは新面になってからなので、インディーズ時代の楽曲はあまりライブで聴くことはできなかった。
ビークル が解散する、となった時もあまり驚かなかった。「5人でやれることはやりきった。」という言葉は、それ以上でもそれ以下でもないことを端的に表していたと思う。
さて、冒頭の夫婦でライブに行った話に戻るが、この日に行ったのは『Saturday Good-Bye 2021』という、thaiさんが亡くなった11月26日付近に追悼の意を込めて毎年開催しているライブだった。
ヒダカさんとumuさんがそれぞれアコースティックライブを披露し、最後にarakiさんが加わりバンドセットになった。thaiさんが亡くなって10年目の節目ということで、サタグバは今回で一旦終了になるとのこと。一区切りになる今夜が、ビークル の楽曲をバンドで聴ける最後になるかもしれない。そう考えたら、ライブハウスの空気もどことなくしんみりと、でも今この瞬間を楽しもうという雰囲気に包まれていた気がする。
E.C.D.T
DERIDE
BALK
初っ端ノンストップの3曲は、1stアルバムからの、そしてベストアルバムの曲順だった。
一部のインディーズ期の曲は、新面になってからも演っていたけど、それでも私たちが行ったことのあるライブでは聴けなかった楽曲の方が断然多い。
WINDOM
FIRE STARTER
SAD SYMPHONY
HAMBURG
EYES IN THE SKY
SECOND THAT EMOTIONS
ようやく聴けたLASTRUM時代の楽曲たち。
ここにthaiさんがいたらなぁ、とか野暮なことは思うまいと心に言い聞かせていたけど、arakiさんがドラムを叩きながら、
thaiさんのパートだったキーボードの部分を口で歌ってたり、
「みんなの頭の中でも鳴ってるでしょ?」
って煽ってくるもんだから、とうとう涙腺が崩壊してしまった。
音楽を続けるということ、さらにはそれでメシを食う、家族を養うというのは想像よりはるかに大変なことだと思う。
ヒダカさんもMCでインディーズ時代の裏話やセンシティブな発言をしており、業界の過酷さを垣間見たような気がした。ヒダカさんがポツリと言った「ぶっちゃけインディーズ時代の曲のほうが俺は好きだけどね。」という言葉は、その真意をはかろうとするといろいろと大人の事情だったり、自分がやりたいこととの乖離だったり、裏ではさまざまな事情があったのだろうと察する。
そして、オーディエンス側もまた、好きなものをずっと好きで居続けるということは相当なものだと個人的には思っている。
どのライブにも欠かさず参戦する熱狂的なファンもいれば、CDは持ってるよというライトな層ももちろんいるだろう。ただ、「好きだった。」と過去形になったとき、現状の好きからは離れてしまうと思うし、それを無理やりつなぎ止める術は正直存在しない。だからこそアーティスト側は活動をし続けるしかないし、好きでいてもらえるかどうかはオーディエンス側に委ねるしかないというのは本当にシビアな世界だ。
だけど、私たち夫婦にとっては、ビークルは過去のものではないし、BEAT CRUSADERSが種となり、芽が出て、今も2人で楽しみ続けている。なかなかライブに行くのは難しいけれど。
この日のライブは私たち夫婦の中で間違いなく『人生で最も思い出に残るライブ』になった。ビークル がいなかったら、私たちは結婚することもなかっただろう。子どもたちが生まれることもなかった。ビートクルセイダースがつないでくれた縁を、我が家はこれからも紡いでいこうと、この日の夜改めて思った。